更生保護施設を運営するに当たって、「何だこの面倒な手続きは」「なぜこんな面倒な文書を作成しなければならないのか」と思うことは日常茶飯事だと思います。
しかし、法令に対する理解が足りないと法的に必要な対応を勝手にやめてしまったり、法的要求を満たさず中途半端にやってしまったりということが起こり得ます。そこで今回は、更生保護施設の運営に関係する法令について解説していきます。
更生保護法
まずは更生保護法です。保護観察所、保護観察官、保護司、仮釈放、遵守事項、更生緊急保護等、更生保護制度の根幹について規定されています。
保護観察対象者(いわゆる「救援」)に対する救護、つまり食事、住居その他の健全な社会生活を営むために必要な手段を得るための支援は、保護観察所の長が更生保護施設等に委託して行うことができるとされています。
逆に言うと、更生保護施設には観察所からの委託を受けていない対象者を保護することまでは求められていません。
保護観察対象者の救護の委託の期間については特定の期間(例:◯か月)でもって明示されておらず、保護観察期間である限り、保護観察所の長は対象者を援護し、予算の範囲内で救護を行うものと規定されています。
一方、更生緊急保護の対象者(いわゆる「更緊」)に対する保護は、保護観察所の長が更生保護施設等に委託して行うことができるとされている点では保護観察対象者と共通していますが、期間については身体の拘束を解かれた後六月を超えない範囲内で行うものと規定されています。つまり、よく言われるように「法定期間」又は「一般法定期間」は6か月ということになります。
保護観察対象者の救護についても更生緊急保護についても共通して言える点として、法律上定められている内容は、あくまで更生保護施設への委託は観察所長が決定するのであって、対象者は保護観察期間や法定期間を通じて更生保護施設で生活する権利が当然に保障されているわけではないという点です。つまり、更生保護施設は、保護観察期間や法定期間の範囲内で委託期間を伸ばしたり縮めたりすることについて観察所と協議することは可能ということになります。
「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則」においても、更生保護施設等の受託者が補導援護を終了することは想定されています。もっとも、観察所と協議せずに一方的に終了することは緊急の事情でもない限り、仕事をもらっている立場の更生保護施設としては賢明ではないでしょう。
加えて、法務省令(犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則)において更生緊急保護は「その対象となる者が、進んで法律を守る善良な社会の一員となり、速やかに改善更生する意欲を有する者であると認められる場合に限り、行うものとする。」とされているので、更生意欲のない対象者を保護するのは法令に反すると言っても過言ではありません。
更生保護事業法
更生保護事業法には理事や評議員の定数等の組織設計に関する事項や定款の変更手続きについて規定されています。
定款の変更は、法務大臣の認可を受けなければ、その効力を生じないとされています。ただし、法務省令(更生保護事業施行規則)に例外となる事項が定められており、例えば単純な資産の増加については大臣認可がなくとも効力を生じますが、遅滞なく届出を行う必要があります。
更生保護事業法施行規則
更生保護事業法の細部について規定されており、例えば、定款変更をはじめとする大臣認可に関する事項や保護簿、金品給貸与簿、被保護者名簿、保管金品台帳、不動産台帳、備品台帳、仕訳帳、総勘定元帳、寄付金出納簿といった法定書類とその保存期間についても定められています。
更生保護施設における処遇の基準等に関する規則
施設の仕様に関する事項のほか、被保護者を、一週間に三回以上入浴させること、一週間ごとにその献立の予定を立て、予定表を食堂その他の適当な場所に掲示しなければならないといった細部にわたる事項が定められています。
更生保護委託費支弁基準
更生保護施設にとっての主な収入源である委託費のことについて規定されています。例えば、適切な人数の職員(5人)を配置をした場合とそうでない場合とで委託費の単価が異なることなどについて定められています。
保護司法
法務大臣から委嘱される非常勤の国家公務員だが、給与は支給されないことなどが規定されている。
なお、「段階別処遇による体系的な保護観察の実施について」という通達で処遇区分ごとに保護司による保護観察対象者との面接の頻度(区分にもよるが少なくとも月に2回程度)等が示されている模様です。
労働基準法
労働基準法には、労働時間や賃金等の労働条件について最低限の基準が定められています。更生保護施設の職員は公務員ではありませんので労働基準法の適用が除外となることはほとんどありませんから、違反しないように留意する必要があります。一概には言えませんが、いくら知識豊富な主任官(保護観察官)といえども、国家公務員であるがゆえに普段、労働基準法が自身に適用されることはなく、同法に接する機会が限られる分、更生保護施設が自力で情報を集めて対応するしかない領域と言えるでしょう。
例えば、労使協定(いわゆるサブロク協定)を労働基準監督署に届け出ずに職員に時間外労働を命じることは違法です。また、労働基準法には「監視又は断続的労働に従事する者」として宿日直に関する規定が設けられていますが、ここで言う労働基準法上の宿日直が更生保護施設で行う宿日直という名前の勤務と同一のものと判断されるとは限りませんし、仮に同一のものと判断されたとしても宿日直を行うために許可を受けることは義務ではありません。さらに言うと、仮に労働基準法上の宿日直の許可を受けたとしても、宿直業務は週1回、日直業務は月1回が限度として運用するよう通達が出されていますので、少数の職員で毎日当直を回す更生保護施設においては労基法上の宿日直は馴染まないのではないでしょうか。(更生保護施設には、1か月単位の変形労働制がもっとも馴染むと考えます。)
そして、全面改築を行う施設は職員に休職を命じることがあると思いますが、その場合、労基法上の休業手当の支給が必要です。休業手当は、平均賃金の6割を上回るものでなければなりませんが、ここで言う平均賃金とは法律で決まっている概念であり、通勤費や宿日直手当などを含みます。ただし、休日はそもそも労働義務がないので休業手当を支給する必要はありません。
なお、労働契約法第9条に定められるとおり、施設が職員の労働条件を一方的に不利益に変更することはできません。したがって、「あいつは働きが悪いから給料を下げよう」というような安易な労働条件の不利益変更は違法とされるリスクが高いです。
ちなみに、就業規則を作成している施設が多いと思いますが、労働基準法上は、常時10人以上の労働者を使用する場合に作成・届出の義務がありますので、10人未満の施設に法的な作成・届出の義務はありません。
そして、代休については、法的に定められた取り扱いではありませんので法律のどこを探してもそのような用語は出てきません。付与するもしないも各施設の任意です。どのような場合に付与するかは就業規則等に定めておくのが一般的です。
職業安定法
職業安定法において、労働者の募集を行う者は、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、一部の例外の場合を除いて報酬を与えてはならないとされています。入所者が他の入所者に対して特定の会社への就労の斡旋をし、当該会社から斡旋を行なった入所者に対して報酬が支払われる場合、この規定に違反するおそれがあるものと思われます。法律の専門家以外が違反の該否を判断することはできませんが、少なくとも職員から入所者に対して「就労の斡旋は法的なリスクもあるしやめとこう」という指導するに当たっての根拠くらいにはなるのではないでしょうか。
組合等登記令
更生保護施設を運営するに当たっては、土地や建物の不動産登記のみならず、法人の登記も必要です。更生保護法人の場合、商業登記法ではなく組合等登記令が適用されます。組合等登記令においては、「事務所の所在場所」「代表権を有する者の氏名」(=理事長)等に変更が生じたときには2週間以内に変更の登記が必要と定められています。ただし、資産の総額の変更についてのみ、毎事業年度末日から三月以内(6月末まで)に変更登記をすれば良いとされています。
標準定款
定款は国税庁のホームページに更生保護法人の標準定款が掲載されています。
同標準定款中、アンダーラインの部分は、租税特別措置法第40条の特例を受けようとする場合における国税庁長官の審査事項となっているので特段の事情なく独自の定款変更を行うべきではないでしょう。例えば、役員は無給とする規定に対してはアンダーラインが引かれています。(理事と監事とは異なり、評議員は役員ではないのでこの標準定款上は報酬を支払っても問題なさそうですが、実際には不公平なのでそんなことはできませんね。)
社会保険、施設管理権、不退去罪、門限、外泊の禁止等
上記以外にも更生保護施設が遵守すべき法令として、厚生年金や健康保険、労働保険、税法関係の届出・納付などもあります。このあたりの法令も、一概には言えませんが、いくら知識豊富な主任官(保護観察官)といえども、自身には直接的に関係がなく、取り扱う機会が限られる分、更生保護施設が自力で情報を集めて対応するしかない領域と言えるでしょう。別の記事の中で丁寧に解説したいと思います。
最後にもう一つ、触れておきたい内容があります。それは、施設の規律維持に関係する法令です。施設の土地・建物は更生保護法人の所有物ですから、施設管理権を有するとされ、正当な理由なく退去しない者に対しては不退去罪が成立します。また、学校の校則などを見れば明らかなように、合理的な範囲であれば法的な根拠が特になくても各施設ごとに規律を維持するためのルールを設け、例えば門限や外泊の禁止をはじめ、入所者の行動に合理的な範囲で制限をかけることは全く問題ありません。特に、施設は集団生活の場ですから、家族等が引受人になる場合よりも行動制限が厳しくなることに合理的理由があるのではないでしょうか。
更生保護施設のような民間施設には国や公務員と違って何の権限もないと思ってしまう方もいるかもしれませんが、そんなことはありませんので、合理的な範囲で自信をもって施設の規律維持にあたってください。
ただし、入所者を怒鳴ったりすることはたとえそれが正当な指導の範囲内だったとしても一度パワハラだと言われてしまうとそうではないだと証明するのは難しいですし、解決に膨大な時間と労力を費やすだけでトラブルの元にしかなりませんので気を付けましょう。

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